2022年 第28回磁気研究助成
対象者のご紹介

2021年8月~11月において募集された第28回磁気研究助成事業において、応募総数26件の中から、12件の磁気研究が採択されました。内訳は「30周年記念特別研究助成2021:総額500万円」に1件、「第3回岡井治特別助成:総額100万円」に1件、「第28回磁気健康科学研究助成:総額1000万円」に10件となります。
当財団の選考委員長である多氣 昌生 先生(東京都立大学 名誉教授)の選考結果コメントや助成対象者のプロフィール、研究内容等をご紹介させていただきますので、ぜひご覧ください。

第28回磁気研究助成
選考結果コメント
東京都立大学名誉教授
選考委員長

多氣 昌生

30周年記念
特別研究助成2021対象者
助成総額500万円

当財団は、2024年に設立30周年を迎えます。 30周年記念事業の一環として、2024年までの間、通常の助成額を増額し、研究期間を延長した「特別研究助成」を行います。磁気健康科学に対する将来性と実現可能性の高い研究が採用されます。

  • 01

    中島 振一郎

    慶應義塾大学 医学部
    精神神経科学教室

    専任講師
    中島 振一郎

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    研究テーマ

    治療抵抗性統合失調症に対する
    最新鋭ニューロモジュレーションの開発

    慶應義塾大学精神神経科の中島振一郎でございます。私の研究「治療抵抗性統合失調症に対する最新鋭ニューロモジュレーションの開発」につきまして、30周年記念特別研究助成をいただきありがとうございます。
    統合失調症は有病率約1%の精神疾患です。約3割の方々が現在の治療で十分な効果を得られておらず、社会生活やQOLへの影響は甚大です。私は、これまでの臨床研究を通して、統合失調症の脳内における興奮抑制神経活動の不均衡を発見してきました。本研究を通して、この病態生理を修復できるようなニューロモジュレーションの開発に挑戦したいと思っております。ご指導・ご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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第3回
岡井治特別研究助成対象者
助成総額100万円

当財団の元理事である故 岡井 治 氏からの寄付金をもとに創設された特別助成です。「神経に対する磁場作用」「磁気刺激による医療応用」に関連した優れた研究が採用されます。

  • 01

    田中 邦彦

    岐阜医療科学大学 大学院保健医療学研究科

    教授
    田中 邦彦

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    研究テーマ

    磁気刺激による内耳前庭系を介した
    反射機能改善の検証

    私はこれまで、血圧、心拍数といった循環機能の神経性調節、そこから発展して「宇宙医学」「重力生理学」といった分野において循環調節機能を研究してまいりました。
    日常生活においても、平衡感覚器官である内耳前庭系は常に重力を感知し、姿勢を保っています。また近年、特に立位で生活する我々人類においては、循環調節にも重要であることがわかってまいりました。これまで、この内耳を刺激する方法として電気刺激を用いてまいりました。しかし、医療用MRIに入ると多くの患者様がめまいを引き起こすことから、磁気でも刺激可能であろうと考えました。
    本研究では、磁気刺激によって姿勢維持機能、起立時血圧調節機能を改善することを目標としております。簡便で侵襲性のない、新たな方法で高齢者の転倒予防から、健康長寿の実現に貢献できれば幸いです。

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第28回
磁気健康科学研究助成対象者
助成総額1,000万円

磁気健康科学を推進するための研究助成を目的としています。磁気を用いて健康の維持及び増進を図ることをテーマにした基礎研究、応用研究、テーマ指定研究のうち有用な将来貢献度の高い研究が採用されます。

  • 01

    後藤 孔郎

    大分大学医学部
    内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座

    講師
    後藤 孔郎

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    研究テーマ

    静磁場による脾臓由来IL-10誘導を用いた
    認知症発症予防の試み

    肥満は脾臓由来の抗炎症性サイトカインであるIL-10合成を抑制し、全身性に軽度慢性炎症をもたらす。実際に脾臓を摘出すると、心血管イベント発症頻度が増加することが知られている。また、肥満がアルツハイマー型認知症(AD)の危険因子であり、脳内の慢性炎症がAD発症に大きく関わるとされている。
    一方、神経細胞の維持に必要である脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor; BDNF)の脳内発現量がAD患者で低下している。今回、静磁場が脾臓由来IL-10合成能を高め、さらに脳内BDNF発現も亢進させることでAD発症予防に有用であるか検討する。
    本研究を通じて、脾臓という臓器の重要性を明らかにしたいと考えている。現代のいわゆる“飽食の時代”および“超高齢化社会”を考慮すると、肥満を伴った認知症患者は増加することが予想される。医療経済が逼迫していることから、磁気によって脾臓由来IL-10発現を増加させるという手法が、今後のADに対する新たな治療戦略となることを期待したい。

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  • 02

    島添 健次

    東京大学大学院 工学系研究科

    特任准教授
    島添 健次

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    研究テーマ

    生体内局所電磁場と原子核スピンの
    相互作用計測と新規現象探索

    この度は第28回磁気研究助成に採択いただき誠にありがとうございます。私の研究テーマは「生体内局所電磁場と原子核スピンの相互作用計測と新規現象探索」になります。
    実は私の元々の専門は磁場ではなく、放射線を利用した医学イメージングになります。磁場と放射線は一見とても離れている分野に見えますがMRIとPET/SPECT等の核医学はどちらも実は原子核の物理的現象を利用した手法であり、本研究では原子核スピンと関連して放出される放射線を精密に計測することで生体内の局所電磁場環境の観測と関連した現象探索に挑みます。現在はMRIとPET/SPECTは形態画像と機能画像を補完する相補的な形で用いられていますが、将来的にMRI等の医用磁気科学と放射線を用いた核医学が本質的な意味で融合されることを目指しています。
    挑戦的な研究ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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  • 03

    正水 芳人

    同志社大学大学院 脳科学研究科

    教授
    正水 芳人

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    研究テーマ

    磁気刺激を用いた神経回路創出法の確立

    本研究ではげっ歯類を対象とし、障害がある脳に神経回路を創出し、脳機能を回復させるための基盤技術の開発を目指します。
    具体的には神経細胞ファイバーを脳に移植し、かつ特定のタイミングで磁気刺激を行い可塑性を誘導し、特定の脳機能を持つ神経回路を創出することによって、脳機能を回復させます。
    さらに神経生理学的手法を用いて、in vivoカルシウムイメージングで脳活動を計測し、脳機能回復過程における活動変化を解明します。

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  • 04

    一柳 優子

    横浜国立大学工学研究院

    教授
    一柳 優子

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    研究テーマ

    がん温熱療法と診断を目指した
    磁気ナノ微粒子の創製

    私はナノメートルサイズの磁性微粒子を作製してその物性評価とともに、医療分野への応用を試みています。ナノサイズであれば十分細胞に入る大きさです。一方、磁性体は外部磁場により発熱します。そこで、微粒子の表面に修飾する分子を工夫して、がん細胞に特異的に導入される磁気微粒子を作製します。
    その上で外から磁場をかけて発熱させ、がん細胞を死滅させるという、物理エネルギーを利用した、磁気ハイパーサーミアの実現を目指しています。
    最近、我々の微粒子が、MRIなどイメージングにも効果的であることがわかってきました。将来的には治療therapyと診断diagnosticsを同時に行う新しい分野、セラノスティクスに貢献できると期待しています。ひとりだけではとても達成することができませんので、思いを同じくした方々と協力しながら推進したいと思っています。

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  • 05

    高倉 朋和

    順天堂大学大学院 医学研究科
    リハビリテーション医学

    准教授
    高倉 朋和

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    研究テーマ

    反復経頭蓋磁気刺激併用認知リハビリテーション
    による認知機能改善効果の検証

    軽度認知障害(MCI)はいわゆる「物忘れ」の状態ですが、その10-30%が認知症に進行するとされます。
    超高齢社会を迎えたいま、認知症進行予防にはMCIの段階からの認知リハビリテーション治療が重要と考えております。機能的MRIによる研究などから、左大脳半球の背外側前頭前野(DLPFC)はワーキングメモリ(WM)課題実施中の注意保持機能を担う中央実行系の一つとされます。
    本研究では、うつ病治療などに使用される左背外側前頭前野(DLPFC)への反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)と、コンピュータを用いた認知リハビリテーション(Computer Assisted Cognitive Rehabilitation)とを組み合わせた認知訓練を実施し、短期記憶やWMなどの認知機能改善効果について検証してまいります。rTMSを用いた認知リハビリテーションの臨床応用に向けて取り組んでまいりたいと思います。

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  • 06

    簑島 維文

    大阪大学大学院 工学研究科

    助教
    簑島 維文

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    研究テーマ

    超小型ナノカプセル 19 FMRI造影剤の開発

    われわれのグループでは19F(フッ素)を核種とする19F MRIに用いる造影剤の研究を行っています。
    フッ素系の造影剤としては水溶性が低く、生体分子への吸着に由来するシグナルの低下が起こるため、界面活性剤にナノエマルジョンとして内包したものが有力なアプローチとして近年報告されています。しかしながら、ナノエマルジョン同士の融合や肥大が起こり、安定ではありません。
    われわれはエマルジョン表面を生体適合性のシリカで被覆することで安定なナノ粒子型造影剤として作製することに成功しています。さらに、ナノ粒子の作製法を見直すことで最近ナノ粒子のサイズを30 nm程度まで小さくできることを見出しました。
    本研究ではこの小さなナノ粒子の19F MRI造影剤としての性質を評価することを目的に、ナノ粒子の調製、精製法の確立と、19F MRIによる体内動態について調べていく予定です。材料化学の立場から磁気健康科学研究へ貢献できるよう研究に励んでいきます。

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  • 07

    藤村 健太

    藤田医科大学保健衛生学部
    リハビリテーション学科

    助教
    藤村 健太

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    研究テーマ

    上肢の局所性ジストニアに対する
    装着型器機を用いた磁気刺激治療

    私の研究テーマは、上肢の局所性ジストニアという症状に対し、われわれが開発した小型で軽量な装着型磁気刺激器機の有効性を検証することです。
    ジストニアとは、骨格筋の持続的もしくは間欠的な筋収縮に特徴づけられる異常な運動のことであり、随意的な運動を妨げ、日常生活に困難が生じます。上肢の局所性ジストニアには、書痙、奏楽手痙、スポーツによるジストニアなどがありますが、高いエビデンスをもつ治療が確立されていないのが現状です。本研究では、字を書くときに意志とは関係なく、指に力が入り過ぎたり、手がふるえてしまったりする「書痙」という手のジストニアに対する磁気刺激の効果を中心に検討します。
    本研究の成果が将来、ジストニアに悩む患者さんへの簡便で有効な治療法の確立に繋がるよう尽力して参ります。

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  • 08

    芝 陽子

    岩手大学理工学部
    生命コース

    准教授
    芝 陽子

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    研究テーマ

    磁性ナノ粒子を用いた細胞小器官の膜損傷と
    ナノ粒子の細胞外への排出の研究

    私たちの体を構成する細胞には様々な細胞小器官、オルガネラが存在し、タンパク質や脂質が行き来しています。
    私はこれまで細胞内の輸送機構を研究してきました。バクテリアやウィルスなどは細胞内のエンドサイトーシス経路を通り、リソソームへ輸送されて分解されますが、ある種のバクテリアやウィルスはオルガネラの膜を破り、細胞質へ抜け出て増殖します。オルガネラ膜の損傷とその修復機構については、まだあまりよくわかっていません。本研究では磁性ナノ粒子を細胞に取り込ませ、磁場をかけることによってオルガネラ膜を中から損傷させ、どのような物理的特性によってオルガネラ膜の損傷が引き起こされるか、またどのような条件ならオルガネラを傷つけずにナノ粒子を外へ排出できるか、を研究します。
    本研究が感染のメカニズムの解明とともに、磁性ナノ粒子のDrug Delivery Systemとしての応用に貢献できればと思っています。どうかよろしくお願いします。

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  • 09

    田村 俊介

    九州大学大学院 医学研究院
    精神病態医学

    特任教授
    田村 俊介

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    研究テーマ

    統合失調症のガンマ帯域神経振動異常における
    AMPA型グルタミン酸受容体の役割

    この度は、「統合失調症のガンマ帯域神経振動異常におけるAMPA型グルタミン酸受容体の役割」という研究を助成いただきありがとうございます。
    ガンマ帯域神経振動とは、脳内で生じる速い周期を持つ神経活動のことで、統合失調症に見られる症状や認知障害と関係することが知られています。
    本研究では、統合失調症患者のガンマ帯域神経振動を脳磁計で計測するとともに、その背景となる分子メカニズムを明らかにするために、AMPA型グルタミン酸受容体との関係性を検討します。
    AMPA型グルタミン酸受容体は、横浜市立大学で開発された世界初のPETリガンドを用いて計測を行います。つまり、世界で初めて統合失調症患者の生体内におけるAMPA型グルタミン酸受容体と神経活動の関連性を調べる研究となります。探索的要素が強い研究ですが、臨床的貢献の大きい成果を挙げることができるよう研究に励んでまいります。

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  • 10

    永井 利幸

    北海道大学大学院 医学研究院
    循環病態内科学教室

    准教授
    永井 利幸

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    研究テーマ

    核磁気共鳴エラストグラフィーを用いた
    肝うっ血評価による心不全の非侵襲リスク層別法の開発

    本研究は核磁気共鳴エラストグラフィー(MRE)を用いた肝うっ血評価による心不全の非侵襲リスク層別法の開発です。心不全患者において、右心カテーテルで侵襲的に測定される右心房圧は強力な予後規定因子となります。これまでに右心房圧上昇の結果生じる肝臓のうっ血に着目した、超音波エラストグラフィー法による肝硬度測定を行った研究は散見されますが、いずれも検者間・内誤差による測定精度の低さが課題となっておりました。我々はMRIを用いた肝臓MREは超音波検査と比較すると検者間・内誤差が少ないことに着目し、MREで非侵襲的に測定した肝硬度による高精度右心房圧推定法を開発しました。本研究では、多数例の心不全患者を対象にMREを施行し、MREで測定された肝硬度と将来イベントリスクとの関連を検討し、肝硬度による新たなリスク層別法を開発することを目指します。本研究が心不全診療の質向上に貢献することを期待いたします。

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