渡邉利三国際奨学金は、海外の大学・研究機関で学びたいという高い志を持つ方々の生活費を支援する制度です(給付型:返済義務なし)。2021年11月~2022年2月において募集された第3回渡邉利三国際奨学金事業において、応募総数29件の中から、12件の留学研究が採択されました。
当財団の選考委員長である多氣 昌生 先生(東京都立大学 名誉教授)の選考結果コメントや助成対象者のプロフィール、研究内容等をご紹介させていただきますので、ぜひご覧ください。
第3回渡邉利三国奨学金
選考結果コメント
東京都立大学名誉教授
選考委員長
多氣 昌生
第3回 渡邉利三国際奨学金
海外留学助成対象者
助成総額1,710万円
新規対象者 9名
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02
大阪公立大学大学院
医学研究科 整形外科学
堀 悠介研究テーマ
特発性側弯症に対する選択的胸椎固定術後矢状面アライメント
についての検討をはじめとする小児脊柱変形に関する臨床研究留学先:Nemours Children's Hospital(アメリカ)
特発性側弯症は脊椎が3次元的にねじれる原因不明の疾患です。
変形の進行は腰背部痛や心肺機能障害を惹起するため、重度の側弯に対しては脊椎の矯正固定手術を行う必要があります。手術機器や技術の進歩により冠状面変形に対しては良好な矯正が得られるようになった一方で、矢状面の矯正にはまだ課題が残っています。特に、選択的胸椎固定術では固定範囲を短縮可能である反面、矢状面の矯正が不十分になることが危惧されます。
留学先では選択的胸椎固定術後の矢状面アライメントの変化を調査し、理想的な矢状面アライメント獲得に向けた手術戦略を構築することを目指します。また、留学先は早期発症側弯症や症候性側弯症など難易度の高い側弯症の治療経験も豊富で、日本未導入の最先端手術も行っています。
全米トップクラスの側弯症センターへの留学を通して、小児側弯症の最先端の治療戦略を学び、帰国後の診療に活かしたいと思います。×
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03
マニトバ大学
渋江 怜研究テーマ
メタゲノミクスによる北極海の
微生物の生態学的かつ宇宙生物学的研究留学先:マニトバ大学(カナダ)
私は、北極海のような低温環境に生息する好冷菌を、生態学と宇宙生物学の観点から研究します。
第一に、生態学的研究を通じ、北極海の環境変化の評価及び観察を行います。地球温暖化の影響により北極海の海氷が解け、多くの船舶が航行できるようになったことから、経済界を中心に北極海航路の活用が注目されています。一方で、経済活動に伴う北極海の将来的な環境汚染も懸念されています。マニトバ大学では、巨大メソコズムと呼ばれる海水を貯めたタンクに数種の原油を流し、原油流出事故が環境と微生物叢にもたらす影響を観察します。
第二に、宇宙生物学では、好冷菌のような極限環境微生物が宇宙空間に生息する可能性が示唆されています。また、木星や土星の衛星に存在するとされる内部海は北極海との類似性が指摘されています。従って、地球上の類似環境で好冷菌の宇宙空間における居住可能性を検証することで、将来の日本の地球外生命探査に拍車をかけます。×
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04
名古屋市立大学 医学部
医学研究科整形外科学
相羽 久輝研究テーマ
凍結免疫と免疫チェックポイント阻害薬
による転移性骨腫瘍の治療戦略の構築留学先:Rizzoli Orthopaedics Institute(イタリア)
この度は、栄誉ある第3回 渡邉利三国際奨学金助成に採択頂きありがとうございます。
今回、私はイタリアの高明な研究機関であるRizzoli Orthopaedics Instituteに留学する機会を得ることが出来ました。日本に比べ欧州では、希少がんの集約化が進んでおり、臨床試験の実施や標準化治療の提供が、より円滑であることが知られています。その点に着目し、本申請では、骨腫瘍の新たな治療法の開発のために、“凍結免疫と免疫チェックポイント阻害薬による転移性骨腫瘍の治療戦略の構築”とのテーマで研究を行う予定です。
がん細胞を凍結することによりがん抗原が全身に放出され、免疫力が向上する効果はAbscopal効果としてこれまで報告されており、本研究では転移性骨腫瘍の治療において応用できるか検討したいと思います。これまで日本で学んだ悪性骨軟部腫瘍の手術・化学療法の知識・経験をイタリアで更に磨き上げ、日本の医療の発展に貢献できるよう尽力して参りたいと考えております。×
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05
慶應義塾大学 医学部
産婦人科学教室
竹田 貴研究テーマ
難治性卵巣癌における正常卵管、初発癌、微小残存癌、再発癌の連続的、遺伝子変異及び代謝解析による発癌機序と新規治療法の探索
留学先:オックスフォード大学(イギリス)
私は、婦人科腫瘍と遺伝を専門としている産婦人科医です。
進行癌で見つかり再発率が高い卵巣癌は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群との関連やリスク低減卵管卵巣切除といった予防医療、相同組み換え修復欠損という特徴によるPARP阻害薬の治療選択など、予防や治療法において大きな変化を迎えています。
今回支援していただく留学では、Oxford大学のAhmed Labにて卵巣癌の発生母地とされる正常卵管、初発癌、抗がん剤治療中の微小残存癌や再発癌を解析し、その発癌、治療抵抗性の獲得、再発のメカニズムの解明を目指します。特に、発癌の過程に重点をおき、正常卵管から作成したオルガノイドに遺伝子編集を加えて、卵巣癌発癌モデルを作成し、その解析から卵巣癌発癌メカニズムの解明を目指します。将来的に卵巣癌の予防、早期発見に繋げたいと思います。×
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06
鶴見大学歯学部
クラウンブリッジ補綴講座
木原 琢也研究テーマ
咀嚼のバイオメカニクスの解明と補綴治療のための
力学的シミュレーションモデルの構築留学先:ジョンズ・ホプキンス大学(アメリカ)
私は歯科技工士として、歯科医療に工学技術を応用する臨床研究を行っています。主な研究は、患者さん個々の補綴装置(かぶせ物や入れ歯など)の応力解析を通じた設計製作の最適化です。患者さんごとに歯の形態や咬合力などは異なり、補綴装置の設計には歯科医師や歯科技工士の技術や経験に依存しているのが現状であるため、よく機能し長期的に安定する補綴装置に与える形状や材質を客観的に提案するシステムの構築を進めています。
留学先のJohns Hopkins Universityは人工知能、バイオメカニクス、コンピュータ支援手術に関する最先端の研究を行っており、本留学ではヒトの咀嚼時のバイオメカニクスを解明することと、咀嚼筋の情報を定量化する技術の開発を行う予定としています。
この留学経験を通じて、将来は人々の口腔機能を回復して維持し、健康寿命の延伸に貢献するための研究およびシステム開発を目指していきます。×
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07
神戸大学医学部
附属病院歯科口腔外科
有本 智美研究テーマ
高頻度骨露出誘発顎骨壊死ラットモデルを用いた
MRONJに対する新規予防法開発留学先:カリフォルニア大学ロサンゼルス校(アメリカ)
薬剤関連性顎骨壊死は、骨粗鬆症・骨転移を有する癌患者で使用されるビスフォスフォネート製剤等の薬剤投与後に抜歯等の侵襲的な歯科処置を契機に顎骨が壊死する疾患です。症状としては、感染や痛みを伴う顎の骨の露出を認め、病状進行により、病的な顎の骨折や皮膚に穴があいてしまう皮膚瘻孔を形成します。残念ながら未だ顎骨壊死の治療法や発症メカニズムは十分に解明されていません。
今回の研究では、日本で私が確立した高頻度に骨露出を誘発する顎骨壊死ラットモデルを用いて、ビスフォスフォネート製剤置換療法の有用性の検討を行います。
本研究でビスフォスフォネート製剤置換療法が有効となれば、患者さんは抜歯前日に歯科クリニックを受診し、歯茎に注射を受け、その翌日に抜歯を行うことで、骨吸収抑制剤の治療効果を維持しながら、顎骨壊死を予防する全く新しい戦略の治療法を世界中の歯科医師が提供できるようになると考えています。×
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08
京都大学医学部医学科
溝口 萌研究テーマ
ゲノムDNA配列の変異によって、
どのようにして細胞内の分子同士のインターラクションが変化し、
細胞の形質に繋がるのか留学先:Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research [FMI] (スイス)
シークエンス技術の発展によって、疾患に特徴的な、 DNA 配列の多型・変異が見つかっていますが、それらがどのような機能を持つのかという、変異の機能解析については発展途上です。
留学先の研究室のテーマは、DNA 配列の変異が、どのようにして細胞の形質に繋がるのかということで、タンパク質の構造モチーフに変異がある時、他の分子との相互作用がどのように変化するのかを大規模に解析しています。そうしたデータを構築し、ジェノタイプから細胞内の分子ネットワークを再現し、細胞のフェノタイプを予測することが目標です。変異による分子ネットワークへの影響を大規模に解析することを今回の留学先で学び、ジェノタイプから疾患の発症リスクを予測するシステムの土台となる研究に寄与したいです。×
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09
京都大学大学院工学研究科
建築学専攻ダニエル研究室
加藤 安珠研究テーマ
人の心理や振る舞いに変化をもたらす空間性についての研究
~日本の茶室とヨーロッパの大聖堂の比較を通して~留学先:スイス連邦工科大学チューリッヒ校(スイス)
現代都市の公共空間に、経済的、社会的役割から解放されて、個人としての時間を過ごすことができる場所が必要であると考えます。そのためには、日常から離れた非日常性をもつ空間を公共空間の中に作る必要があります。
私は「日本の茶室とヨーロッパの大聖堂の比較を通して人の心理や振る舞いに変化をもたらす空間性についての研究」を行なっています。茶室と大聖堂は、大きさ、機能、文化的背景などが全く異なるにもかかわらず、その空間によって、人の気持ちや振る舞いに変化をもたらす力を持っています。認知工学を用いた空間認知実験を日本の茶室とスイスの大聖堂それぞれで行い、それらの空間性の比較を通して、人の心理や振る舞いに変化をもたらす空間要素を明らかにすることを目指します。
将来は、研究結果を応用して現代社会に必要とされる新しい建築を提案できる建築家になりたいと考えています。×
更新対象者 3名
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01
メリーランド大学カレッジパーク校大学院(アメリカ)
金子 昌賢研究テーマ
音響解析のための科学技術計算手法、
仮想現実・次世代高臨場感通信のための立体音響技術留学先:メリーランド大学カレッジパーク校大学院(アメリカ)
このたび、渡邉財団の奨学生として採用して頂きました、金子昌賢と申します。
まずは再度奨学生として採用をして頂けたことに、深く御礼を申し上げたいと思います。このようなご支援は本当に励みになります。ありがとうございます。
私の留学先は米国メリーランド大学カレッジパーク校のコンピュータサイエンス専攻です。留学は残り2年程度の予定ですが、引き続き次世代の高臨場感立体音響技術や、新しい高性能かつ高精度な数値音響技術を実現したいと考えています。将来の展望としては、今回の留学先での研究を通して開発した技術や、身に着けた知識・ノウハウを次世代のものづくりや次世代テレコミュニケーションの発展に役立てていく仕事ができたらと考えています。以上、ありがとうございました。×
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02
ラヴァル大学(カナダ)
山本 楠研究テーマ
物理的相互作用情報を用いたタンパク質の
新規進化系解析と進化モデルの構築留学先:ラヴァル大学(カナダ)
私はタンパク質の変異が機能並びに他のタンパク質との相互作用に及ぼす影響をボトムアップに理解できるフレームワークの構築を目指しています。
留学先のLaval大学Landry研究室(ケベック、カナダ)ではプロテアソーム複合体の異種相同タンパク質を対象に、その相互作用と出芽酵母細胞内での機能の比較解析を行なっています。これによりタンパク質複合体の進化過程における機能的制約を加味したモデルの構築を行います。将来的にこのモデルを用いることで、疾患等にみられる変異の影響をより高精度に類推できることが期待されます。
学位取得後は留学経験で得た知識や技術を活かし、先端的の研究成果を社会に還元できるよう努めてまいります。×
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03
ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)
竹中 康一郎研究テーマ
細胞内液-液相分離による生体内化学反応の時空的制御に関わる
物理メカニズムとその異常によって生じる疾患に関する研究留学先:ドレスデン工科大学(ドイツ)
こんにちは。ベルギーのKU Leuven工学部の修士課程1年目に所属している竹中康一郎と申します。
私は、今年度10月より、ドイツのTU Dresdenに進学し細胞内液-液相分離に関する研究を行う予定です。
細胞内液-液相分離は、生体分子の時間的・空間的制御に関する新しいメカニズムとして知られています。近年、このメカニズムの異常が難病ALSなどを中心として様々な疾患の原因に関わっていることが次々と報告されています。また、細胞内液-液相分離を通して生命の起源を探るような、独創的な研究もおこなわれ始めています。細胞内液-液相分離研究で世界をリードするドイツ、ドレスデンに留学することで、まだまだ謎の多い、細胞内液-液相分離に関する基礎的な知見の発見を目指すとともに、関連した疾患の原因解明や治療戦略開発に貢献したいと思います。よろしくお願いいたします。×
01
大阪大学大学院
基礎工学研究科
井上 まりこ
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研究テーマ
電極反応による二酸化炭素を炭素源に用いた
アルキルアミンのN-メチル化反応に最適な新規卑金属錯体触媒系の開発
留学先:チューリッヒ工科大学(スイス)
二酸化炭素の実質排出量をなくすカーボン・ニュートラル社会の実現に向け、二酸化炭素の排出を抑制するだけでなく、二酸化炭素を有機合成の原料として活用する研究が注目を集めています。具体的には、これまでに、二酸化炭素を還元条件下で第二級アルキルアミンと反応させることによりアミンのメチル化反応が進行することが見出されており、医薬品や農薬などの生理活性物質や機能性材料の合成への応用が期待されています。
私はこの反応をより経済的かつ省エネルギーで達成するため、持続的に入手可能で安価な卑金属を触媒成分として採用し、さらにエネルギー効率の高い電気反応の手法を利用することを計画しています。この留学を通し、新しい技術や知識を身に付けることはもちろん、積極的に人脈を広げ、将来の研究活動に繋げたいと考えています。